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文字通りの掃き溜め。覚書とも、下書きとも。
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パラレルの続きです。
ガンガンいきます。

いわゆるファンタジーもののお話です。
苦手な方は避けてくださいね。



 旅人というものは、宿屋の食堂では必ずといっていいほど注目され、珍しい話の語り部となることを要求される。それは大概、ムードメーカーたるゴウの担当であり、込み入った話になってレツが交代するのが彼らのセオリーだった。
「――そうだな、あとは。ああ、そうだ!おれたち、迷いの森を突っ切ってきたんだぜ」
 これまで立ち寄った街の話や倒した手ごわい魔物の話をしていたゴウは、思い出したように唇の端を持ち上げた。危険な魔物を倒すのと同様、危険な場所を無事に切り抜けるのは、旅人たちのステータスになる。今回、ゴウが近道をしようと言い出したのも、そもそもはそこに起因するのだ。
「あの森を?よく抜けられたなぁ」
「魔物は出なかったのか?」
「転移の魔道具も通用しないっていう場所なのに、たいしたもんだ!」
「へっ、まあな。このおれさまの手にかかれば、ちょろいもんよ」
「ゴウ、それはお前の自慢できる話じゃないだろ」
「そうだぞ、Jくんがいなかったら、いまごろ野垂れ死んでたかもしれないんだからな」
 多少の脚色や誇張は見逃していた二人が口を挟んで諌めれば、わくわくと身を乗り出して聞き入っていた聴衆たちの間に、どよめきが走る。
「あ、すいません。こいつ、脚色するのが好きなもので」
どよめきを、ゴウの誇大表現への非難ととったレツが慌てて頭を下げれば、追加の酒をもってやってきた宿屋のおかみが「違うんだよ」と苦笑を浮かべる。
「もしかしてそれは、褐色の肌と金の髪の子じゃないかい?」
「え?ご存知なんですか?」
「ご存知もなにも、ここらじゃ一番の薬師だからね」
 そっと周囲を見渡し、おかみは身を屈めながら小声で続ける。
「腕は確かだけど、神殿の神官さまがお嫌いなのさ。街には顔を出さない。有名だよ」
「神官が嫌う?なにか禁を犯したことでもあるのか?」
 めったなことではなさそうだと、リョウが目を丸くしながら問い返せば、集っていた人々が次々に口を開く。
「あー、あれは魔物憑きなんだ」
「三年前のことだ。見たこともないような魔物が、血まみれになってあれをつれてきたんだ。それは、騒ぎになったもんだよ」
「本当は、魔物を殺してあげようとしたんだけど、強すぎて歯が立たなかったんだ」
「それでも怪我人を捨て置くことはできなかったから、手当てが終わったら、街を追い出されたのさ」
 それで、と、リョウは渋い顔で頷いた。魔物憑きとあっては無理もない。神官が各街にいる大きな理由のひとつは、魔物を寄せつけないことにある。そんなところに魔物憑きがやってきたのでは、面子にかかわる。まして、退治することが叶わなかったとあってはなおのこと。感情的にも政治的にも、嫌われているというのは納得のいく話だ。
「もっとも、行くあてがないんだろうね。そのあと、迷いの森の麓に住み着いたって聞いてる」
「そうそう。でも、あれの作る薬は神官さまのよりよく効くってんで、怪我や病のときにはこっそり頼みにいくんだよ」
 衣類やその他、街でしか手に入らないものと引き換えに、彼らは彼らで、うまく共存関係を築いているらしい。あっという間に集まった情報に目を丸くしながら、三人は顔を見合わせる。
「あんたたち、魔物退治は得意なのかい?だったら、退治してもらえないかねえ」
「そうじゃなきゃ、旅にでも誘ってみたらどうだ?あれほど腕の立つ薬師は、他にいない」
 空いた皿やコップを器用にまとめておかみが言えば、他の客も、複雑な笑みで同意する。もともと、この街がたびたび魔物の襲撃を受けているのはレツたちも聞いていた。不安要素はひとつでも減らしておきたいのだと、彼らの表情が語っているのは明白だ。
「いまは害がないけど、この先どうなるかなんて誰もわからない」
「それに、魔物がいる限り、あれにこの街の居場所はないからな」
 小さく落とされた一言が、この街の状況とあいまって、Jの立場を集約し、象徴していた。


 借りた部屋に引き上げ、扉を閉じたリョウは、窓の鍵を確認しているレツの背中に声をかけた。
「どう思う?」
「Jくんのこと?」
 きちんとしまっていることを確認し、レツは振り向きながら眉を寄せてみせる。
「難しいね」
「難しいって、なにが?誘ってみればいいじゃん」
「それ以前の話だよ、ゴウ」
 ベッドに寝そべる姿勢から視線だけを向けてきた弟にため息をつき、レツは手近なベッドの端に腰を下ろした。
「なんで?だって、術士で薬師なんだろ?いいやつっぽかったし、いてくれるに越したことはないじゃんか」
「確かに、術士が加わってくれるとありがたいがな。魔物憑きって点が引っかかる」
「そう、問題はそこなんだよね」
 年長者二人が大きく息をつくのを、ゴウはただ不思議そうな面持ちで眺めるだけだ。
「それの何がいけねーんだ?」
「お前、今までの街で会った魔物憑きのこと、覚えてるか?」
「あー?忘れるわけねえじゃん。おれさまが大活躍して、魔物を退治してやっただろ?」
 だから今回も同じように、と言いかけたところで、ゴウははたと口を閉じる。
「気がついたか?」
 レツの誘導尋問に引っかかった自分をようやく悟り、ゴウは気まずそうに視線を泳がせる。
 この場合、退治する対象は、他ならぬ自分を助けてくれたあのイーファとかいう獣のことなのだろう。それは、あまり心地よくない考えだった。命の恩人ともいえる相手に、自分は剣の切っ先を向けられるだろうか。
それに、これまで出会った魔物憑きたちはみな、自我を失い、魔物に魂を食われていた。ところが、Jの場合はそのどれにも当てはまらない。
「Jくんの場合、魔物に憑かれているようには見えない。むしろ、友達だって呼んでたぐらいだし」
「何か事情があるのかもしれんが、あれで本当に魔物に憑かれているなら、倒さずに通り過ぎるわけにもいかないだろう。そんな相手の言うことを、果たして承諾するかどうか」
「難しい話だよね」
 結局最初の一言に戻り、レツは深くため息を落とす。
 助けてくれた相手が、どうみても慕っていた相手を退治するのは気が進まない。それでも、見ないふりで通り過ぎるにはたくさんの情報が集まりすぎてしまった。少なくとも、先ほどまで宿に集っていた人々は、自分たちに魔物退治か、彼をいまの住処から追い出すことを期待しているだろう。
街から街へとさすらって生きる分、憎まれ役を押し付けられがちなのはいまに始まったことではないが、ここまで憂鬱になるのは初めてだった。
 どうしたものかと、それぞれが眉間にしわを寄せて考え込んでいた静寂の空間に、突如響き渡った悲鳴があった。反射的にそれぞれの武器を手に窓から外を見て、レツは呆然と呟く。
「魔物?」
「すっげぇ数。どんぐらいいるんだ?」
「とにかく、外に出るぞ」
 街中の道を駆けるのは、狼のような四足の獣たち。もっとも、大きさは本物の狼と桁違いである。夜の闇の中でも活気を保っていた通りは、阿鼻叫喚の響き渡る地獄へと様変わりを遂げる。
 慌てて外に駆け出しながら宿の人間に決して扉を開けないよう言い置き、レツたちはとにかく、街の中心にあった広場を目指す。そこここで倒れている人を見る限り、彼らは人間を食べるために襲ってきたわけではないのだろう。怪我の苦痛に呻きながらも、とどめを刺され、貪り食われている人間はめったにいない。
「こいつら、群れだ。親玉を叩かないと!」
 群れのリーダーは大概、騒ぎの中心に陣取っていることが多い。向かってくる魔物は容赦なく薙ぎ払い、足を進めれば広場はそう遠くない。目の前が開けると同時に、視界に飛び込んできたのは、おびただしい数の魔物たち。足を止めて得物を正面に構えながら警戒態勢をとれば、魔物たちもまた肩を下げ、うなり声によって威嚇をはじめる。


***

続きます。

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