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今回はちょっと百合風味?
マルガレータさんとジャネットさんが頑張っています。
そして小悪魔なみんなのアイドルれっちゃんがいます。
苦手な方はご注意を。
午後の種目の幕開けを飾ったのは、騎馬戦だった。
「あんたたちっ!!ちゃんと私を守り抜きなさいよ!!」
飛びつき綱引きで予想外のリタイアが続出してしまったため、残る人員がほぼ全員、必然的に駆り集められている。白組の総大将は、どうしても扇子を手放さない、オーディンズはジャネット嬢。哀れな下僕たちには、同じくオーディンズのワルデガルドとヨハンソン、それから体格の都合上借り出されたハマーD。彼も先の飛びつき綱引きで少なからぬ負傷は負っていたが、持ち前の丈夫さから、さして支障なしとのことで連続出場と相成っている。
びしりと扇子で前方に控える駒たちに気合を入れ、すっと手首をわずかに持ち上げればその視線は敵の総大将に固定される。
「騙されたりほだされたりのろけたりしたら、承知しないからっ!!」
薄ピンクのファーの向こうには、赤毛の鮮やかな少年のさわやかスマイル。こちらが恐怖政治を布く北風戦法なら、あちらは褒めておだてて手駒を操る太陽戦法。
古典にのっとった、由緒正しい対戦カードだ。
『盛り上がってるみたいだねっ!! じゃあ、ルールを説明するよっ!!』
おとなしく座って実況をするのは彼のスタイルに合わないらしく、ファイターはどこからかマイお立ち台を持参して、テントの正面に陣取っている。相変わらずのオーバーリアクションでこぶしを握り、いよいよ本領発揮といった風情だ。
『ルールは簡単っ!! 騎馬が崩れるか、上に乗っているみんなのハチマキをとられたらその騎馬はリタイアだっ!! 取りにくいように結び方を工夫しているのは、違反だから気をつけてくれっ!!』
勝利条件は、互いの総大将を打ち倒すか、その他の駒たちを完全に打ち倒すこと。一騎を狙ってみなで攻めるもよし、王将を守りながら外堀を埋めるもよし。まさに戦略とチームワークがものをいう一戦。
「いい? 駒を蹴散らしながら、レツ・セイバを狙いなさい! ハチマキとりながら押し倒してもいいからっ!!」
非常に危険かつ効果的な作戦を声高にジャネットが指示すれば、野郎どもは野太くおおっ、と鬨の声を上げる。
人選にミスはないはずだ。ジャネットはお約束のように口元を優雅に扇子で覆いながら、ゆるりと目を細める。少々の無理は承知の上で、ブレットとシュミットには騎馬の上を、エーリッヒには別の騎馬の先陣を任せてある。この三騎は、他の追随を許さない勢いで突っ走ってくれるだろう。そして、固い結束で結ばれたキツネたち。ここには機動性と丈夫な騎馬を期待できる。
(男の扱いなんか、こんなものよ)
総大将一騎を狙い撃ち。これが白組の基本方針である。
胸の中でほくそえむ彼女の作戦は、どこからどう見ても完璧なはずだった。
いやでも高まる機運を見ながら、ファイターはすっかりインカム並みになじんだホイッスルを唇に当てる。
『じゃあっ、はじめ!!』
高く青く澄み着た秋の空に、鋭い笛の音と野太い怒号が響き渡る。
「来たよ、いい? 作戦を忘れないでね!」
先陣を切って突進してくるバイザーの少年をちらりと一瞥し、赤組の総大将はチームメイトたちに引き締まった声をかける。
「女の子は基本的に女の子同士で片をつけることにはくれぐれも気をつけて!」
いわれのない偶発的セクハラによる訴え防止を目的とした、策を前提に、少年は騎馬の上から一声、フォーメーションの変形を命じる。
「ミハエルくんは前に! あとは適当に通すか蹴散らすかして!」
雑兵たちから総大将を守りながらも、カモは総大将への生贄に。選考基準は、烈に向けられる視線がどのぐらい熱いかである。ちなみに、雑兵たちはそれぞれの苦手意識を持つだろう人間がはっきりしている場合、彼らが優先して対処部隊にあてられている。
『おおっと! 先陣を飛び出していたブレットくんをかわし、烈くんまっしぐらのシュミットくんとエーリッヒくんだが、思わぬ障害に出くわしたぞ!!』
「障害ってなにさ。失礼だなあ」
ぷうっと頬を膨らませれば、天使の容貌もあいまって愛くるしさ三割増。鉄の狼のボスが、腹心と参謀役二人を前に、ねえ、と同意を求める。
「さあ、君たちはぼくが相手だよ」
「リーダー、どいてください」
「そうですよ、私はレツ・セイバに用があるんです」
いまは敵同士といえ、夕方には宿舎の同室で顔を突き合せねばならない。たとえ組をたがえて争っているという大義名分が合っても、リーダーをぞんざいに扱えば、世にも恐ろしい反省会が待っているのは火を見るより明らかだ。
「ふうん。君たちは、ぼくより烈くんのほうがいいんだ?」
「~~っ! アドルフ、へスラー、そこをどけ!!」
「そうですよ、なんでちょこまかと私とシュミットの妨害をするんです?」
ミハエルが乗っているのは、アドルフとへスラー二人による、特別仕様の騎馬だ。人数が足りないための変則騎馬は、非常に機動性に富み、二騎を相手に一歩もひかない戦いっぷりをみせる。
「二人とも、気にすることないからね。だってぼくの仲間だもん」
下手な返答は命取りと知っているため沈黙を押し通す自分の足たちに一声かけると、ミハエルはきっと面前を睨みすえる。
「いいよ、通さないだけだから!」
『すごい! 神業としか呼べないぞーっ!? ミハエルくん、鬼のような素早さで二騎からハチマキを奪った!!』
抵抗する暇もなく、エーリッヒ、シュミット、烈の膝元にすら届かぬまま、完敗。
そこかしこで繰り広げられる戦いにより、双方戦力の半分ほどは失われてきた。ここまでくるとあとは互いに実力が拮抗しているため、自慢の脚力を活かしての追いかけっことなりつつある。自陣の奥で全体を睥睨しながら、烈はすいと視線を落とす。
「そろそろ、かな?」
「そうだね。じゃあ、お願いできる?」
大将騎を支える一人、Jは、軽く頷くととなりに佇む騎馬に声をかけた。
「ええ、行ってくるわ」
これぞ、赤組の必殺秘密兵器。マルガレータ騎だ。
白熱した戦いをやはり自陣の奥で見守っていたジャネットは、大将たちの間を分断する戦乱の只中に、大切な面影がふらふらと迷い込むのを捉えた。
「あの子っ!?」
おろおろとしながら果敢に戦う素振りをみせ、逆に襲われてくしゃりと表情がゆがむ、黒髪おさげの可憐な少女。ジャネットの頭を、不動の不等式が支配するのに時間は必要なかった。
「進みなさい!」
号令を一声。いま出て行くのは不利だと訴える馬たちを扇子で黙らせ、ジャネットは前進を開始する。
「あんたたち、私のマルガレータになんてことするのよっ!?」
『おっと、これは内乱かーっ!? 白組の総大将が、白組の騎馬を次々となぎ倒していく!! 圧倒的な強さだ!!』
扇子を鞭代わりに馬を縦横無尽に走らせ、ジャネットは、マルガレータを救うというただ一つの目標にすべてのエネルギーを傾けた。
「おい、ジャネット!? 落ち着けよ、お前、味方ま――!!」
なんとか諌めねばと、勇敢にもジャネットの前に進み出たニエミネンは、抗議文をすべて口にすることもできず、無言の扇子一振りによって騎馬の上から叩き落される。
混乱に乗じて烈のもとに到達したブレットは、体力を温存してあった馬の機敏な動きにより、あえなく横合いからタックルをかまされ落馬。白組の騎馬にしては長かったが、短い命だった。
ジャネットの素晴らしいの一語に尽きるはたらきのおかげで、残っていた騎馬は、敵味方の区別なく、ウルトラマンが地球で生息できるタイムリミットよりも早くすべてが片付いた。
「無事? 怪我はない? 大丈夫?」
「まあ、ジャネット! 助けてくれたのね? ありがとう」
味方のうめき声など踏みにじり、ジャネットは青ざめた表情できょとんとことの成り行きを見守っていたマルガレータのもとに辿り着いた。足元を眺め、正面の友人を眺め、向かい合う。そしてにっこりとかけねなしの笑顔で労わられれば、ジャネットの疲労など青空の彼方に吹き飛んでいく。
「ついでに、これも頂戴ね?」
白組の騎馬がジャネットを残して全滅している段階で勝敗は決していたが、マルガレータは笑顔を崩さないまま、ひょいとジャネットの頭からハチマキを取り上げる。
「さあ、これでおしまい! もう下りてもいいかしら?」
振り仰がれ、ファイターはやはりハイテンションに『もちろんだ!!』とこぶしを振り回す。
『赤組の、圧勝だあっ!!』
一目瞭然の事実を高らかに告げ、ファイターは騎馬戦の終了を宣言した。
白組の作戦は完璧だった。ただ誤算があったとすれば、マルガレータのことが、このくだらない競技の勝敗よりも、赤組総大将に骨抜きにされている少年たちよりもなによりも大切だという、ジャネットの中の基本原理を見落としていたことだったろう。
「やっぱり、頭脳戦だよね」
地上に戻った烈の微笑みは、青空を背景にしていて非常にまぶしい。
ここまでの結果、体力の無駄遣いの少ない赤組が一歩リードだ。