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文字通りの掃き溜め。覚書とも、下書きとも。
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お読みになる前に、まず注意です。
いつもと相当毛色が違うので、ご了承の上、お進みください。

① J烈です。しかも女体化ありの、J(♂)×烈(♀)です。
② パラレルもどきです。ネタばれしてしまうと、異世界のJ(♂)×烈(♀)がアニメ世界の烈くん(こっちは男の子)たちとちょっと出会って云々的なお話です。
③ 悲恋です。変則的死にネタともいえます。

前振りが長くなりましたが、そんな感じです。
くれぐれも、以上の条件をクリアできる方のみ、先にお進みください。後生です。


 差し伸べられた手の上に浮かび上がったのは、鮮やかな紅玉をあしらった、繊細な金の指輪。
「お返しします」
 それを耳にしたとたん、レツの双眸が大きく見開かれ、悲壮だった表情に驚愕が上書かれていく。
「それは父上がジェイに渡したものでしょう? 大切な宝物だって、そう言っていたじゃない」
「ええ、大切な宝物でした。あなたのガーディアンである証なのですから」
 自嘲気味な笑みと、吐き捨てるような声。表情を更に歪めながら、ジェイは腕を下ろした。それに合わせて指輪は宙を滑り、ゆっくりとレツの目の前に浮遊する。
「姫のお傍にお仕えしていられた時間は、私にとって非常に貴重なものでした。とどまる場所を求めず旅をしてきた私がこんなにも長い時間を一ヶ所で過ごすことになるなど思いませんでしたし、姫のおかげで、多くの友を得ることができました」
「ジェイ? どういうことなの? ガーディアンの証を返すって、どうして?」
 指輪を手に慌てて距離を詰め、縋りつきながら困惑に揺れる声で問いを重ねるレツには答えず、ジェイはそっと、その肩を押してレツを引き剥がす。
「お忘れなさい、いとけない人の子。あなたは私を通して、あなたの知らない世界を見ているだけ。私とあなたは、旅人と一国の皇女、臣下と主人。人ならざるモノと、人の子」
 言葉のまま、小さな子供のわがままをあやすような声でとつとつと語り、ジェイはいっそう自嘲の色を濃くする。
「そんなこと、関係ないでしょう? あなたという存在はあなたでしかなくて、だから、わたくしはあなたのことが――」
「その先は、言葉にしてはいけません」
 引き剥がされてもなお縋り、レツは必死の形相で言葉を紡ぐ。しかし、言いかけた言葉はそっと口元にかざされた手によって遮られ、緩慢に振られる首に拒絶される。
 わなわなと震え、両目に一杯に涙を湛えて、それでもレツは怯まずジェイを見上げていた。今度は縋りつくのではなく、ごく近くにただ立ち尽くし、じっと静かな双眸を見上げる。
「わたくしの思いを、知っていたのですね」
「姫は、素直でいらっしゃるから」
 くすりと、ジェイはひどく穏やかな笑みを刻む。
「知っていてなお知らないふりを貫くのは、わたくしが皇女だからですか?」
「この地においては皇女ではないと、そう申されますか? ですが、たとえどんな世界に渡ったとしても、種族の違いは埋められません。異種族のものに思いを寄せても、絶望を思い知るだけです」
 そして浮かべられたのは、諦念に縁取られた微笑。

 

 何か大切なものを投げ出してしまっているような表情にレツが口を開くよりも早く、ジェイは言葉を紡ぐ。
「異世界への渡航は、神々の定められた例外的状況を除き、皇国が出来るよりも前に禁じられた、いわば世界の禁忌です。それでもなお水鏡が遺されたのは、過去や未来を映すその奇跡を通じ、神々が人の子に恩寵を与えるため。その鏡を御すことが出来たということは、あなたが神の愛し子であることの証」
 正面に立つレツからも、更にその奥に立つ子供たちからも隠れるように、ジェイは右手に奇跡を願う。
「今回の件は、不幸な事故です。神の愛し子が秘宝に引き寄せられるのは当然のことであり、水鏡が暴走することは誰にも予測が出来ないこと。そして、姫を一人にさせ、その身を守ることの出来なかったガーディアンたる私の咎」
「ジェイ? 何、を?」
 次々と紡がれる脈絡の読めない言葉に、レツは声を震わせる。淡々と述べられたそれは、事実をほんの少しだけ織り込んだ、まるで秀逸な戯曲のよう。
「私の罪を問うよりもまず、あなたを連れ戻すことこそが皇国に仕えるすべてのものの至上命題。ゆえに私は、あなたを探して異世界へと渡りました。そして、あなたを無事に送り返すことが、あなたのガーディアンとしての最後の使命」
 ゆったりとした動きで、ジェイは右手をレツの頬に添えた。愛しさと、この上ない切なさを籠めた動作は、まるで咲きかけた花に触れるかのような繊細さをもって。
「いまなお人の子の国に残っているエルフの血は私だけ。酔狂なことだ、と、同胞には呆れられましたが、尊き神々は私を気にかけてくださいました。同胞の住む神々に近き国に渡るために、ただ一度だけ、奇跡を願う恩寵を与えられています。その恩寵を、あなたに差し上げましょう」
 やさしい声で、ジェイはこの上なく残酷な言葉をレツに送る。拒絶は受け取らないと雄弁に語る表情は穏やかで、長上族の持つ圧倒的な存在感がレツを呑む。
『力ある諸王に願う。私に与えられた恩寵を、どうか、人の子に。あるべき世界へと渡る奇跡を、どうか、かの姫に』
 紡がれたのは、知らない言葉。意味は取れるものの、その音は追えない。ただ、言葉の持つ力が大気を震わせる。宙に放たれた音が、それだけで大きな力を持っていることを否が応でも悟らせる。


 頬に添えられていたJの右手から光と風が溢れ、それはやがてレツを包む球状の紗幕となった。徐々に世界から引き剥がされる感触に、レツは離れていくジェイの手を追う。しかし、紗幕に阻まれ、触れることすら叶わない。
「ジェイ!? あなたも戻るんでしょう? 罪になんて問わせない。これは、わたくしが勝手にやったことですもの! ちゃんと、父王にも審議会にも、わたくしがそう申し上げるから!」
「無理ですよ」
 紗幕を叩き、必死に訴えるレツにジェイは無情な言葉を返す。
「世界を渡るにしても、世界に倦んでしまった私の力では足りなかったのです。それでもこうして姫の許に辿り着き、体が崩れず保たれていたのも、すべては神々のあなたへの思いと、与えられていた恩寵のおかげ。あなたが戻り、恩寵を失ったなら、私はもはや崩れるのを待つ砂人形のようなもの」
 言っている間にも厚さと光度を増す紗幕によって、レツは世界から隔たれる。
「いとけない人の姫、やさしき人の姫。私のことはお忘れなさい。千年以上を生きてきて、私ははじめて定命の人の子を羨みました。私が人の子であったなら、あるいは、あなたを愛することが出来たかもしれません。けれども、私はエルフでしかあれなかったのです」
 ぼんやりと、霞がかりながらもかろうじて見てとれる相手の手に、幕越しに手を合わせて、ジェイはそっと微笑んだ。指先に燈った光がレツに渡り、そして紗幕の内で崩れ落ちた細い体に、笑みに含まれる慈愛と自嘲は更に深まっていく。
「お忘れなさい、人の子よ。私の心を差し上げましょう。そして、それをもって夢を封じましょう。これが、私があなたに差し上げられる、精一杯の愛のカタチです」
 言葉を受けて眩い光の繭は完成し、包まれた人影すらも見えなくなる。すると今度は収束し、風を伴って、レツは世界から掻き消えた。


***

もう一息です。

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