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――やっぱ星馬烈は速いよなぁ。
――ぼく、今度はテクニカルマシンにしようっと。
――あ、マネかよ!
――おれもそうするんだ!
――……じゃあ、おれも!
――でもさ、鷹羽リョウもすごかったよな。
――カッコいいよな。
――もっと頑張ったら、ああなれるかな?
――お前じゃ無理だって。
――う、うるさいなぁ!!
「リョウくん、人気者だね」
「お前ほどじゃない」
レースが終わって、去っていくレーサーも観客も、みんな興奮した笑顔で口々にトップの二人を称えている。
照れくさいやら嬉しいやら、とりあえず、浮かぶ表情は同じ。
「兄貴? おれに慰めの言葉とかは?」
「そうだな、セッティングの何たるかについて、後でじっくりお兄様が教えてやるよ」
コースアウトでリタイアした情けない弟には、掛け値なしの明るい笑顔が向けられる。
「だからやめとけって言っただろ!?」
「そんなこと言ったって、いまさらじゃん」
「だけど、もう少しはやりようってものがだなぁ」
「あー、うるさいうるさい! わーってるっての!」
「静かにしろ!!」
「兄貴のほうがうるさいじゃん」
「声を潜めろって言ってるのがわかんないのかよ!?」
「わかってるって。だから、兄貴も落ち着けよ」
「俺は落ち着いてる」
「はいはい、そーですか」
「お前、やる気あんのか?」
「たったいまなくなったとこ。兄貴、うしろ」
「え?」
「…………あんたたち、これ、どういうことなんだい?」
振り仰いだ先。仁王立つ母さんのひくついた口元ほど、怖いものはないんだ。
恐怖に青ざめて、声さえ出なくなった地表の面々を見やり、子供はふにゃりとあくびをした。
「い、いいかい、落ち着くんだよ!」
「はしご! はしごあったっけ!?」
わたわたと右往左往する集団を悠然と見下ろし、瞬きをひとつ。腕の中でもぞもぞとうごめく感触に、そっと頬を寄せる。毛玉はふかふかとあたたかい。
「どうしたんですか?」
「動かない!!」
すっかり葉を落としたとはいえ、枝が邪魔になって下が見えにくかったのか。よっこいしょ、と身を乗り出せば、綺麗な合唱が返る。
「でも……」
「ああっ! 落ちたらどうするんだい!?」
「そういうことですか」
何を慌てているのかを理解するや、子供はぐらりと上体を揺らす。阿鼻叫喚の中心に、軽やかに降り立つ身軽な仕草。
「降りられないなら、登りませんよ」
「降り方をもっと考えてくれ!!」
一斉に襲ってきた叱責の嵐の中で、腕の中の子猫がみゃあと鳴いて二度寝の体勢に入った。
駆け回る姿は、無味乾燥した世界において本当に鮮やかだと思う。
くすんだ空と、灰色の地面と、白い風と。
色を失った世界はひっそりと眠っているのに、自ら光を発するかのように、きらきらと。
「元気だなぁ」
「博士! 現実逃避している暇があったら、書類速く片付けてください!!」
「……わかっているよ」
はあっ、と大げさに溜め息をついて、窓辺から振り返る。見たくもない、書類の山が積まれた机を。
「どうしてあんなに元気なんだろうねぇ」
「子供は風の子なんですよ。さ、こっちの書類もお願いしますね」
溜め息をもうひとつ。窓の外からは、子供たちの歓声がみっつ。
頭の中をぐるぐるしているのを、だだもれにしてみました。
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