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文字通りの掃き溜め。覚書とも、下書きとも。
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八月二十三日

 烈くんたちにキャンプにさそわれた。断るつもりだったけど、博士に行くように言われた。
 今日もレイに会ったけど、あいかわらずだった。いやだけど、言えない。むずかしい。
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八月二十日

 久しぶりに豪くんと烈くんが来た。お母さんの方のおじいさんの家に行ってきたんだそうだ。
 おみやげに、おまんじゅうと絵はがきとキーホルダーをもらった。おみやげをもらうのははじめてだった。うれしかった。
 おまんじゅうはおやつにして、所員のみなさんにも配った。すごくおいしかった。絵はがきとキーホルダーは、引き出しにしまった。
 宝物をここにしまうことにしようと思う。すごいうれしかった。
 あと、今度遊びにおいで、って烈くんにさそわれた。お母さんやお父さんが、ボクと会ってみたいんだそうだ。
 そんなこと言われたのははじめてで、びっくりした。なんて答えればいいのか、わからなかった。だから、とりあえずごまかしてみた。
 烈くんは、ちょっとびっくりしてた。もしかしたら、答をまちがったのかもしれない。

八月三日

 今日も暑かった。でも、豪くんや烈くんたちは元気だった。ボクはつかれ気味だ。
 豪くんは夏休みの宿題がきらいらしい。普段の宿題よりもやっかいなのだそうだ。ボクには違いがよくわからない。
 宿題で、家の手伝いをするというのがあるらしい。なんでそれが宿題になるのかよくわからない。
 ボクはアイロンの話をした。何かしてるか聞かれたから。ふたりともびっくりして、できるのか、って聞かれた。あんまり、って言ったら笑われた。
 烈くんたちのお母さんは上手なんだそうだ。うらやましいって言ったら、豪くんにはやっぱり笑われた。
 グレートジャパンカップが終わったら、さとがえりするそうだ。
 博士に聞いた。さとがえりは、おじいさんやおばあさんの家に行くこと。

七月十九日

 今日は、この前の夜に約束したアイロンの使い方を教えてもらった。仕組みはかんたんだから、使い方はすぐに覚えられた。
 しわを残さないようにするのはすごくむずかしかった。練習しようと思う。
 基本的に自分の分は自分でやると言ったけど、土屋博士はまとめて家事をするのが好きらしい。洗たくと料理は任せっきりだ。
 もっとも、食事は食堂がほとんどだし、洗たく物の取り込みはやってるんだけど。


 小さく小さく口ずさみながら、Jは夕暮れの階段を軽やかに下っていく。片足ずつ、大げさなまでに宙に蹴りだして、リズムをとって唄を紡ぐ。
 鞄を揺らして、紙袋を揺らす。長く伸びた影が一緒になってゆらりと躍る。石畳の上で、不規則にステップを踏む。

Trick or Treat.
Trick or Treat.
I want something good to eat.

 風が駆け抜けて、地面に横たわる街路樹の影がいっせいに揺れる。ざわざわと歌いながら、頭上から枯葉の雨を降らせる。地面にやってきた落ち葉たちは、そこかしこで渦を描く。風に踊ってくるくると。

Trick or Treat.
Trick or Treat.

 歌い、謡い、謳え。覚えたばかりのメロディーをなぞりながら、Jはハロウィン色の道を行く。
 暗がりの黒。夕日の橙。狭間の空は、蒼と藍と紫と。
 かさかさと、袋の中でセロハンが鳴く。ちっぽけなお菓子たちは、今日のパーティーで貰ったもの。教師たちが用意したものも、パーティー用に準備されたものも、各家庭からの有志による心遣いも。
 この日にあわせての調理実習で作ったクッキーは、なかなかいい出来だった。さくっとしていてほのかに甘くて、見た目もおいしそうに出来上がった。年少学年の子達による仮装もかわいかったし、同学年や上級生の、希望者による仮装は力が入っていて迫力があった。先生たちもそれぞれに着飾っていて楽しかった。

Give me something nice and sweet.
Give me candy and an apple, too.
And I won't play a trick on you!

 階段を抜け、緩やかな下り坂に出る。吹き抜ける風は少し冷たいけれど、コートを出すにはまだ早い。ブレザーの襟を心持ち直して、片手ずつに持っていた鞄と紙袋を右手にまとめて足を速める。

――Trick or Treat. Trick or Treat.

 それは誰のセリフだろう。
 お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。本当にホントに、それだけなのか。
 かぼちゃのランタンとろうそくと、楡とハシバミとヒイラギと。
 ハロウィンに必要なものを取り揃えて、そして防ぐのは誰のいたずらなのか。いたずら小僧か、いたずら子鬼か、意地悪な魔女か。

 影が消える。雑踏に紛れて、影が見えなくなる。思わず振り返って夕日を探して、建物の向こうに隠れてしまったその姿の代わりに、今にも消えそうな橙の雲を見る。
 闇に紛れそうで、やわらかなオレンジの光がないのが寂しくて、Jは一層足を速める。

――Trick or Treat. Trick or Treat.

 いたずらもお菓子もいらないから、かぼちゃのランタンを作ろうと思う。
 ランタンが作れないなら、せめてろうそくを灯そうと思う。
 雑踏を縫って、Jは駆けていく。灯りはじめた街灯を道しるべにして、還るべき場所へ。

Fin.

***


 ハロウィン小話でした。
 イベント跡地の『夜明けの晩に』とちょっと被っていますが、その年のハロウィンのつもり。
 ちょっとわかりづらいですが、『夜明けの晩に』も『Trick and Treat!!』も、ハロウィン当日ではないんです。
 このお話が当日編。


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